Research

当研究室は2004年にスタートした研究室です。当研究室では、レーザー光信号のスイッチングに用いられる非線形光学材料などの創製を主な目的として、π共役系化合物の分子設計および合成、固相重合による高分子の合成、高機能発現のための分子の配列・配向制御、得られた化合物の材料化(単結晶化、ポリマー化、ナノ構造体化など)、それらの構造評価、光電子物性評価などをおこなっています。

 

テーマ1 共役アセチレン誘導体の固相重合とポリマーの光学特性評価

ブタジイン誘導体が結晶中で適当な分子配列を取っていると,光や放射線,熱等の励起によって1,4-付加重合が進行し,共役高分子であるポリジアセチレンを与えます。このような固相重合は、結晶格子中での重合であるために、重合時のモノマー分子の動きが制限されており、その結果非常に立体規則性の高いポリマーが得られます。化合物によりますが、理想的な場合にはモノマー単結晶からポリマー単結晶への転移が起こり、巨視的なポリマー単結晶を得ることも可能です。また、無溶媒反応であることから、環境にも優しい重合反応と言うこともできます。
 共役高分子は,そのπ共役主鎖に起因した興味深い光・電子特性を示します。ポリジアセチレンは共役高分子の中でも最初に3次非線形光学特性が評価されました。3次非線形光学特性を用いると光による光の高速スイッチングが可能となることから,高性能3次非線形光学材料の開発は,将来の光による超高速・大容量情報処理実現のための一つのアプローチとして重要です。当研究室では,非線形光学感受率の更なる向上や他の興味深い光・電子特性の発現を目的として,新規な主鎖-側鎖共役型ポリジアセチレンや主鎖同士が共役したラダー型のポリジアセチレンの合成を行い,得られたポリマーの光学特性について調べています。現在,側鎖として分子間相互作用による主鎖電子構造の制御が可能なピリジン環が直結したブタジイン誘導体の重合,アセチレンが3個以上共役したオリゴイン化合物の重合位置やラダー化に伴う吸収の変化などについての検討を行っています。

 

Bull. Chem. Soc. Jpn., 90, 387-394 (2017)
Bull. Chem. Soc. Jpn., 90, 298-305 (2017)
Polym. J., 48, 1013-1018 (2016)


テーマ2 イオン性色素結晶の作製と光学特性評価

2次非線形光学材料は,レーザーの波長変換や電場による変調のために重要であり,既に無機結晶が実用的に使われています。一方,有機化合物の2次非線形光学特性は,無機化合物を大きく上回ることが知られていますが,素子化への段階の障壁が高く,未だ本格的実用化はなされていません。有機結晶の中でも,電子供与基を置換したスチルバゾリウム誘導体は,第一分子超分極率(電場に対して2次の超分極率)βが大きく,イオン性結晶であることから高融点・高硬度であり,また,対アニオン交換によって,1つのカチオンから様々な分子配列の結晶を作り出すことができるという優れた特徴を持っています。一般に2次非線形光学材料は非中心対称構造でなければならず,そのための色素分子の配列制御が重要です。図2に示したイオン性色素結晶は,我々が世界に先駆けて見出した高性能2次非線形光学結晶で,差周波発生による広帯域・高出力のテラヘルツ波の発生が可能であることが実証されています。このカチオン部分のπ共役系を広げることによって分子超分極率は増加しますが,中心対称結晶構造を取り易くなったり,結晶作製が難しくなったりする傾向があるため,それらを克服しながらさらに特性が向上した結晶の合成を目指しています。

 

 

Mol. Cryst. Liq. Cryst., 704, 1-9 (2020))
Cryst. Growth Des., 19, 5811-5818 (2019)

 

テーマ3 ナノ結晶における反応

ここで言うナノ結晶とはサイズが数十~数百ナノメートルの単結晶のことです。有機化合物は粉末で得られることも多いですが,これらは,サイズは小さくともほとんどが結晶です。もし結晶を光の波長と比較して充分小さなサイズとすることができれば,大きな単結晶を作らなくとも,結晶の性質を有しつつ光散乱が小さな材料が実現できるかも知れません。また,小さな結晶とすることで,大きな結晶には見られない性質の発現の可能性もあります。そのような観点から,光・電子機能を有する有機化合物のナノ結晶化に興味が持たれています。ナノ結晶化の手法にはいくつかありますが,最も簡便な方法として再沈殿があります。例えば,水に不溶の化合物をアセトンに溶解し,その溶液を水に注入することで,アセトンは水に溶解することから化合物のみ水中に分散します。濃度や温度等を調整することで,形態・サイズが制御されたナノ結晶の作製が可能となります。
 さて,究極の高分子合成といえば,立体規則的構造を有し分子量分布が単分散であるポリマーを合成することですが,サイズ制御されたナノ結晶の中で固相重合を行うことでそれが可能となります。仮にモノマー単位の長さを0.5 nmとすると,100量体で50 nm,1000量体で500 nmと,まさにナノ結晶のサイズが,現実的に合成されている高分子の重合度に対応する長さとなっています。そこで,様々なモノマーのナノ結晶の作製とその固相重合についての検討を行っています。また,従来の固相重合では,光や熱による励起で結晶の内部・外部を問わず重合が進行していましたが,結晶外部からの活性化学種による固相重合にも取り組んでおり,ナノ結晶の表面の修飾やそれを手がかりとしたナノ結晶の基板上への配列を目指しています。

 

 

Bull. Chem. Soc. Jpn., 90, 387-394 (2017)
Bull. Chem. Soc. Jpn., 90, 298-305 (2017)
Polym. J., 48, 1013-1018 (2016)

 

テーマ4 EO(電気光学)材料を指向した高極性分子(ポリマー)の合成

光情報処理に必要な光スイッチングに用いられる電気光学(EO)ポリマーを得るために,大きな分極構造を持つ新しい色素を合成し,電場による色素の配向とその固定化について検討します。また,レーザー光からテラヘルツ波を発生する波長変換材料や,有機太陽電池材料,強誘電材料等への応用が期待できるイオン性芳香族色素結晶を合成します。

 

 

Mol. Cryst. Liq. Cryst., 686, 70-77 (2019)
Dyes Pigm., 159, 345-351 (2018)
Mol. Cryst. Liq. Cryst., 597, 73-78 (2014)

 

テーマ5 イオンペアによるπ共役系分子の特性変化

π共役系分子は主にπ-π相互作用をはじめとした分子間相互作用を基盤として集合体を形成します。これまでは置換基導入による電子状態の変化や、立体障害によってその集合形態を変化させてきましたが、我々のグループではイオンペアとの会合体形成により電子状態の変化を可能にし、最終的にはπ共役系分子からなる集合体の自在構築をめざしています。

 

 

Chem. Commun., 56,10654-10657 (2020)